
この記事のポイント
- 使われない原因の多くは、業務の中での用途が決まっていないことにある。
- 業務ごとの指示文の見本を用意すると、慣れていない人も使い始めやすい。
- 未利用の理由を一件の業務から聞き取り、見本と確認方法を直して再度試す。
ChatGPTなどの生成AIのアカウントを社員に配ったのに、数か月たっても使っているのは一部の人だけ。こうした状態は、AI導入の初期によく見られます。
ツールを用意すれば自然に使われるだろうと考えがちです。しかし実際には、「何に使えばよいか分からない」「使ってよいのか不安」といった理由で、手を止めている社員もいるはずです。
この記事では、生成AIが社内で使われない主な理由を4つに分け、それぞれの対策を紹介します。ChatGPTに限らず、ほかの生成AIツールでも同じ考え方が使えるはずです。なお、各ツールの機能や料金は変わるため、導入時は公式情報を確認してください。
理由 1: 何に 使えばよいかが 決まっていない
よくあるのは、業務の中での用途が決まっていないケースです。「自由に使ってください」と言われても、多くの人は自分の業務のどこで使えるかをすぐには思いつきません。試しに質問してみて、期待した答えが返ってこなかった時点で、使うのをやめてしまうこともあります。
対策は、部署や職種ごとに「この作業に使う」という用途を具体的に示すことです。たとえば営業部門なら、商談後のお礼メールの下書き、提案書の構成案づくり、議事録の要約などが候補になります。総務部門であれば、社内通知の文面づくりや、規程の内容を分かりやすく言い換えた説明文の作成が考えられるでしょう。
用途を決めるときは、現場の担当者に「時間がかかっている作業」を聞くところから始めます。担当者が自分で選んだ作業であれば、試した結果にも関心を持ってもらいやすくなります。用途は多く並べるより、まず一つか二つに絞って示すほうが、社員も試す場面を思い浮かべやすいはずです。
理由 2: 使い方が 分からず、 最初の 結果に 満足できない
用途が決まっていても、指示の出し方が分からないと、使える結果は得られません。短い指示だけを入力すると、一般的で当たり障りのない文章が返ってくることが多く、「自分で書いたほうが早い」と感じてしまいます。
生成AIに伝える指示文は、プロンプトと呼ばれます。プロンプトに目的、読み手、含めたい内容、文字数や形式などを書くと、意図に近い結果が得られやすくなるでしょう。
対策として、業務ごとの指示文の見本を用意しておきます。「お礼メールの下書きを作るときは、この文をコピーして商談の内容を書き足す」という形にしておけば、使い方に慣れていない人でもすぐに試せます。見本を作るときは、実際の業務で使った指示文と、その結果をセットで残しておくと分かりやすいでしょう。どう書けばどんな結果が出るかが分かれば、自分の業務に合わせて書き換える手がかりになるからです。
見本は社内の共有フォルダなどにまとめておくのがおすすめです。使った人が改善した版を追加していけるようにすると、内容が少しずつ充実していきます。
理由 3: 使ってよいのか 分からず、 不安がある
「社外秘の情報を入力したら問題になるのでは」という不安から、使うのを控えている社員もいます。ルールが示されていない状態では、慎重な人ほど使わなくなるものです。
対策は、入力してよい情報と入力しない情報を、具体的な例で示すことです。「顧客名や個人情報は入力しない」「公開済みの資料の内容は入力してよい」のように、判断に迷わない書き方にします。ルールの作り方は、生成AIの社内利用ルールの作り方で詳しく説明しています。
あわせて、AIが出力した内容を誰がどのように確認するかも決めておきましょう。生成AIは、事実と異なる内容をもっともらしく出力することがあるためです。確認の手順が決まっていれば、社員は安心して下書きに使えます。
理由 4: 使っても 評価されず、 続ける 理由がない
使い始めた社員がいても、その工夫が社内で共有されないと、取り組みは広がりません。上長が関心を示さない場合、AIを使うことが「余計なこと」と受け取られるおそれもあります。
対策として、うまくいった使い方を共有する場を設けます。定例会議の一部で紹介する、社内チャットに専用の場所を作るといった方法が考えられるでしょう。小さな事例でも、「この作業がこう楽になった」という具体的な話は、ほかの社員が試すきっかけになります。
経営者や管理職が自ら使ってみせることも大切です。上の立場の人が使っていると、社員は「業務で使ってよいものだ」と受け取りやすくなります。
使われる 状態をつくるための 進め方
4つの理由に共通するのは、ツールを配ることと、業務の中で使われることの間に差があるという点です。その差を埋めるために、次の順で進めるとよいでしょう。

まず、対象の部署と用途を一つか二つに絞ります。次に、その用途の指示文の見本と、入力してよい情報のルールを用意します。そのうえで少人数に一定期間使ってもらい、使った回数や作業時間の変化、困った点を聞き取ってください。結果を見て見本やルールを直してから、ほかの部署に広げます。
この流れは、全社に一度に広げるよりも時間がかかるように見えるかもしれません。しかし、使い方が固まった状態で広げられるため、結果として社内で使われる状態に近づきやすくなります。全社への広げ方は、AIを一部の社員から全社に広げる手順も参考にしてください。
使っていない 社員への 聞き 取り方
「なぜ使わないのか」とだけ聞くと、社員は責められているように感じることがあります。直近でAIを使おうとした作業を一件選び、どこで止まったかを順に確認すると、改善する箇所が見えます。
| 聞くこと | 分かること | 次に試す対策 |
|---|---|---|
| 最近、どの作業で使おうとしましたか | 用途が決まっているか | 対象業務を一件選ぶ |
| 何を入力しようとしましたか | 情報の扱いで迷ったか | 入力できる例を示す |
| 出力のどこが使えませんでしたか | 指示や資料が足りないか | 見本と条件を直す |
| 使った後に何を直しましたか | 確認の負担が大きいか | 対象範囲や確認方法を見直す |
| 次も使うなら何が必要ですか | 続けるための条件 | 相談先や作業時間を用意する |
そもそも対象となる業務が少ない人もいます。その場合に利用を強制しても、仕事が増えるだけです。AIを使った回数と、仕事が改善したかどうかは分けて考えてください。利用しない理由が業務上妥当なら、対象者を絞る判断もできます。
総務の 案内文で 使い 直す 想定例
総務担当が社内研修の案内を作ろうとして、「研修の案内を書いて」と入力したところ、長い一般論が返ってきたと仮定します。担当者は毎回大きく直していたため、使うのをやめました。この場合、ツールの追加契約より、入力の見本を用意することから始めます。

開催日、場所、対象者、申込方法、申込期限の五つを記入する欄を作り、「件名と本文に分ける」「未記入の条件は補わない」「申込方法を先に示す」と指示します。完成済みの案内を見本として渡す場合は、その内容を入力してよいかを確認してください。
担当者は架空の研修で試し、出力の日時と条件を照合します。文章が短くなっても必要事項が抜けるなら、確認項目を指示文に足します。別の担当者にも同じ見本を使ってもらい、説明がなくても作業できるかを確認します。
この流れで負担が減らなければ、そもそも定型文で十分な業務かもしれません。決まった案内の日時だけを変える作業では、文書のひな形のほうが早い場合があります。AIが必要な用途を見直すことも、導入後の改善に含まれます。
定着の 確認は、 次の 仕事でも 使えたかを 見る
再度試す期間には、ログイン回数だけでなく、対象業務が何件あり、そのうち何件でAIを使い、何件を業務で使える状態にできたかを確認します。対象業務が発生しなかった週に使われていなくても、定着していないとは言い切れません。
使った結果は、短縮した時間と、確認・修正にかかった時間を合わせて見ます。担当者が下書きを早く作れても、上長の確認時間が増えていれば、確認方法を見直す必要があります。使う人の感想と、成果物を受け取る人の感想を両方集めると、負担の偏りに気づけます。
振り返りでは、一度に多くの対策を変えず、今回は入力見本、次は確認方法というように改善点を絞ります。何を変えた結果、どこが使いやすくなったかを記録すれば、ほかの部署にも説明できます。指示文の修正例は、仕事で使えるプロンプトの書き方を参考にしてください。
まとめ
ChatGPTなどの生成AIが社内で使われない理由は、用途が決まっていない、使い方が分からない、使ってよいか不安がある、使っても評価されない、の4つに整理できます。どれもツールの性能より、社内の準備に関わる問題です。
用途と指示文の見本、入力のルール、共有の場をそろえることで、使われる状態に近づけます。一度にすべてをそろえる必要はありません。まずは一つの部署の一つの用途から始めてみてください。
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