
この記事のポイント
- AIに渡す前に、列の意味・単位・期間・返品の扱いを書いたデータの説明を用意する。
- 合計や比較の計算はプログラムで行い、AIには集計のコードづくりと結果の説明を任せる。
- 行数、総額、期間、単位などの検算の手順を決め、データから言えない説明は仮説として扱う。
売上や在庫のデータを生成AIに渡して、「先月売上が落ちた商品と理由を教えて」と頼むと、表計算で集計表を作るより早く答えが返ってきます。ただ、その答えに含まれる数字が正しいかどうかは、そのままでは分かりません。
この記事では、売上・在庫のデータをAIで分析するときの進め方を、表計算との違いから説明します。結論としては、合計や増減の計算はプログラムで行い、AIには集計の手順づくりと結果の説明を任せる分担にします。データの整え方、質問の書き方、月次報告を例にした検算の手順も紹介します。
表計算と AIによる 分析の 違い
表計算では、担当者が関数やピボットテーブルを組み、どの範囲をどう計算するかを自分で決めます。AIによる分析では、担当者は文章で質問し、AIが計算の方法を選んで結果と説明を返します。
| 項目 | 表計算 | AIによる分析 |
|---|---|---|
| 指示の方法 | 関数や操作で計算を組む | 文章で質問する |
| 計算の中身 | セルの式を見れば分かる | 示させなければ分からない |
| 得意なこと | 決まった集計の繰り返し | 切り口を変えた集計、結果の説明 |
| 注意する点 | 範囲の指定漏れ、式のコピーの誤り | 計算の誤り、データにない理由の補足 |
| 確かめ方 | 式とセルを追う | 集計に使ったコードと結果を確かめる |
AIを使う利点は、「地域別に」「前年同月と比べて」といった切り口を言葉で変えながら、何度も集計を試せることです。その一方で、生成AIは文章を作る仕組みのため、文章の生成だけで多くの数字を合計させると計算を誤ることがあります。
渡す データの 整え方
AIに渡すデータは、人が見て意味の分かる形に整えてから渡します。販売管理システムから出した明細には、社内でしか通じない列名や、返品と値引きが混ざった行が含まれていることがあるためです。
最初に、データの説明を書いた一覧を作ります。列ごとに、列名、意味、単位、値の例を書きます。売上の金額が税込か税抜か、数量の単位が個かケースか、日付が受注日か出荷日かは、必ず書いておきます。返品をマイナスの行で表すのか、別の列で表すのかも明記します。
次に、データの範囲をそろえます。対象の期間、店舗や部門、商品の区分を決め、範囲外の行を除いてから渡します。商品コードは商品マスタと結びつけ、商品名や分類の列を加えておくと、AIが商品の分類を説明に使えます。
顧客名や担当者名のような個人に関わる列は、分析に必要がなければ削ります。必要な場合も、会社として利用を認めたツールで扱います。社内データの整理の進め方はAIアプリ開発の前に整理したい社内データで詳しく説明しています。
集計は プログラム、 説明は AIに 分ける
数字を正しく出すために、計算はプログラムで行い、AIには説明を担当させます。具体的には、AIに集計のためのSQLやPythonのコードを書かせ、そのコードをデータに対して実行し、実行結果をAIに渡して説明を書かせる流れにします。

AIツールの中には、会話の中でコードを書いて実行し、結果を返す機能を持つものもあります。この機能を使う場合も、AIが実行したコードを表示させ、どの列をどう計算したかを確かめられるようにします。
業務で繰り返し使う集計は、毎回AIにコードを書かせず、確かめたコードを固定して使います。月次の売上集計のように定義が決まっているものは、計算の方法を一度決めてシステムに組み込みます。AIは集計結果の説明と追加の質問への対応だけを担当する形にすると、月ごとに計算の方法が変わることを防げます。
質問の 書き方
AIへの質問には、何を比べたいか、どの期間か、結果をどの形で出すかを書きます。
添付の売上明細(列の意味は「データの説明」シートを参照)を使い、
今月と前年同月の売上金額(税抜)を、商品分類ごとに比べてください。
・集計に使ったPythonのコードを先に示してください
・結果は表にし、分類、今年、前年、差額の列にしてください
・差額が大きい分類について、データから分かる事実だけを説明してください
・データから分からない理由は書かず、確かめるべき点として挙げてください
最後の二行は、AIの説明の範囲を決める指示です。売上明細には天候や競合の情報は入っていないため、「雨が多かったから売上が下がった」のような説明は、データから導いた結論になりません。そうした説明が出た場合は、確かめる前の仮説として扱います。
想定例 営業 管理の 担当者が 月次 報告を 作る
ここからは想定例です。営業管理の担当者が、毎月の会議で使う売上と在庫の報告をAIの支援で作る場面を考えます。
担当者が使う資料は、販売管理システムから出力した当月の売上明細、月末時点の在庫一覧、商品マスタの三つです。担当者はデータの説明の一覧とあわせてこれらを読み込ませ、「商品分類ごとの売上の前年同月比較」と「在庫の金額が前月より増えた商品の一覧」を依頼します。
AIは集計のコードを示し、実行結果の表と説明の下書きを返します。担当者は次の節の手順で数字を検算し、説明のうちデータから言えない部分を削るか、確認中と書き直します。在庫が増えた理由は、購買の担当者に確かめた内容を担当者自身が書き加え、報告を仕上げます。
検算の 手順
AIの集計結果を報告に使う前に、次の手順で数字を確かめます。

| 確認 | 方法 |
|---|---|
| 行数 | 読み込んだ明細の行数が、元のファイルの行数と同じか |
| 総額 | 売上の合計が、販売管理システムの月次帳票の合計と同じか |
| 期間 | 月初と月末の日付の行が、範囲どおりに含まれているか |
| 単位 | 税込・税抜、個・ケースが、データの説明どおりに扱われているか |
| 一部の手計算 | 一つの分類を選び、表計算で同じ集計をして比べる |
| 前月との連続 | 前月の報告の数字と、今回のデータの前月分が同じか |
総額が帳票と合わない場合は、返品や値引きの行の扱いと、期間の切り方から確かめます。差の原因が分かるまでは、その集計を報告に使いません。検算で見つかった誤りと原因は記録し、データの説明や固定したコードの修正に反映します。数字をAIの文章生成に頼らない設計の考え方は、AIの誤回答(ハルシネーション)に備える設計でも説明しています。
社内の 仕組みにするときの 構成
担当者がAIツールにファイルを読み込ませる使い方は、試すには手軽です。ただ、毎月の業務にすると、データの出力や読み込みの手順が担当者ごとに変わります。継続して使う場合は、販売管理システムからデータを取り込む処理、定義を固定した集計、AIによる説明と質問への回答、担当者の確認を一つの仕組みにまとめる方法があります。
この構成では、数字はすべて集計の処理が出し、AIは数字を受け取って文章にする役割に限られます。既製のツールで足りるか、自社向けに作るかの判断は既製のAIツールと独自開発、どちらを選ぶかを参考にしてください。
まとめ
売上・在庫のデータをAIで分析するときは、列の意味や単位を書いたデータの説明を用意し、範囲をそろえてから渡します。合計や比較の計算はプログラムで行い、AIには集計のコードづくりと結果の説明を任せます。行数、総額、期間、単位などの検算の手順を決め、データから言えない説明は仮説として扱ってください。
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