
この記事のポイント
- 共有ライブラリは、社内の用語集や手順書をAIが参照できる形でまとめたもの。
- 最初は質問の多い業務に絞り、テーマごとに分けた短い文書から整える。
- 用語の意味・適用範囲・例外・担当者を文書に残し、回答できなかった質問から更新する。
社内でAIを使い始めると、「社内の用語が通じない」「自社の手順と違う回答が返ってくる」といった声が出てくることがあります。AIは一般的な知識をもとに文章を作るため、その会社だけで使う言葉や決まりごとを知りません。社内の情報を参照させる仕組みがなければ、回答が一般論にとどまるのは自然なことです。
そこで検討したいのが、社内の用語集や手順書をAIが参照できる形でまとめた「共有ライブラリ」です。この記事では、共有ライブラリに載せる情報と文書の書き方、運用の決め方を順に説明します。
共有 ライブラリとは
ここでいう共有ライブラリとは、社内の用語や業務の手順、規程などを一か所にまとめたものです。AIが回答を作るときに、これらを参照できるようにしておきます。人が読む社内マニュアルと内容は同じでも、AIが探しやすい形に整えておく点が違いです。

AIに社内の資料を参照させる仕組みとしては、RAGがよく使われます。RAGとは、質問に関係する資料を検索してから回答を作る仕組みです。資料の内容をもとに回答するため、社内の実情に合った答えを得やすくなります。ただし、RAGの回答の質は、参照する資料の質に大きく左右されます。資料が古かったり、書き方があいまいだったりすると、回答も不正確になりがちです。RAGの仕組みはRAGの基本で詳しく説明しています。
何から 載せるか
最初からすべての社内資料を載せる必要はありません。社員からの質問が多い業務や、担当者によって説明が違う業務から始めると、効果を確かめやすくなります。載せる情報の種類と使われ方の例を表にまとめました。
| 種類 | 内容の例 | AIでの使われ方の例 |
|---|---|---|
| 用語集 | 社内の略語、製品名、部署名 | 質問に含まれる社内用語の意味を補う |
| 手順書 | 経費精算、受注処理、問い合わせ対応 | 作業の手順を答える |
| 規程・ルール | 就業規則、情報管理のルール | 決まりごとを確認する |
| よくある質問 | 社員や顧客から繰り返し聞かれる質問 | 決まった回答をもとに返答案を作る |
| 文書のひな形 | 報告書や提案書の型 | 社内の形式に沿った下書きを作る |
用語集は、特に早めに用意しておきたい資料です。社内の略語や独自の呼び方は、AIだけでは意味を推測できません。たとえば同じ略語が部署によって別の意味で使われている場合は、部署ごとの意味を併記しておくと誤解を防げます。
AIが 参照しやすい 文書の 書き方
AIが参照しやすい文書は、人にとっても読みやすい文書です。いくつかの点に気をつけるだけで、回答の正確さが変わります。
まず、一つの文書には一つのテーマだけを書くのが基本です。複数の手順が一つの長い文書に混ざっていると、検索したときに関係のない部分まで拾われやすくなります。文書のタイトルには、内容が分かる具体的な言葉を入れましょう。「経費精算の手順(出張費)」のように書くと、検索で見つけやすくなります。
次に、「これ」「上記」のような指示語はなるべく使わないようにしてください。RAGでは、文書を短い単位に分けて検索する方法がよく使われます。その場合、前後の文脈がない状態で文書の一部が読まれる可能性があります。略語は、初めて出てくるところで正式な名前も書いておくのが確実です。
最後に、文書ごとに最終更新日と担当者を書いておきます。AIが回答の根拠として文書を示したときに、利用者がその情報が新しいかどうかを判断できます。
すでにある社内マニュアルを使う場合は、書き直す前に、まず現在の文書でAIに質問してみるとよいでしょう。うまく答えられない質問が分かれば、どの文書から直すべきかが見えてきます。すべてを一度に書き直そうとすると負担が大きいため、問題の出た文書から順に手を入れるのが現実的です。
閲覧 範囲と 更新の 担当を 決める
共有ライブラリに載せる資料には、社員全員が見てよいものと、一部の人だけが見てよいものがあります。人事や経理の資料のように閲覧できる人が限られる情報は、AIを通しても同じ範囲の人だけが参照できるように設定しましょう。資料ごとに閲覧できる部署や役割を決め、AIの検索にもその設定が反映される仕組みにすることが大切です。

もう一つ決めておきたいのが、更新の担当です。手順や規程が変わったのに共有ライブラリが古いままだと、AIは古い情報をもとに回答してしまいます。資料ごとに更新の担当者を決め、半年に一度など見直しの時期を決めておきましょう。元の資料を更新したときに、共有ライブラリへ自動で反映される仕組みにできれば、更新漏れを減らせます。
使いながら 直していく
共有ライブラリは、作って終わりにせず、使いながら直していくものです。AIが答えられなかった質問や、利用者が「役に立たなかった」と評価した回答を記録しておくと、足りない資料が分かります。
記録を見て、同じような質問が繰り返し出ている場合は、その内容を手順書やよくある質問に追加します。回答が間違っていた場合は、参照された資料の書き方に問題がなかったかを確認しましょう。資料の追加と修正を続けることで、AIの回答は社内の実情に合ったものに近づいていきます。
運用の担当は、一人で抱えずに部署ごとに分担するのが現実的です。各部署の担当者が自分の部署の資料を見直し、全体のまとめ役が記録の確認と優先順位の判断を行う形が考えられます。
曖昧な 手順を 参照しやすく 直す例
架空の会社の手順メモに、「いつもの表へ記入して、承認後に担当へ回す」と書かれているとします。普段の担当者には通じても、新しい社員やAIには、どの表か、誰が承認するかが分かりません。
共有ライブラリでは、「備品購入申請フォームに品名と目的を入力し、所属長が承認した後に総務担当者へ送る」のように、対象と順番を具体的にします。承認前に購入してよいかが決まっていない場合は、担当部署に確認してから記載します。文章を整える作業だけで、会社のルールを補って作らないことが大切です。
手順書の見本には、次の項目を用意できます。この内容は説明用の想定であり、実際の会社の規程ではありません。
| 項目 | 記入例 |
|---|---|
| 文書名 | 備品購入の申請手順 |
| 対象者 | 社員本人が業務用備品を申請する場合 |
| 申請の前に必要なもの | 品名、用途、購入候補の資料 |
| 手順 | フォーム入力、所属長の確認、総務の手配 |
| 対象外 | 修理依頼、定期契約の更新 |
| 不明な場合の窓口 | 総務の備品担当 |
| 管理情報 | 適用日、更新日、資料責任者 |
見出しだけでなく、対象外も書くと別の手順との取り違えを減らせます。修理依頼は別文書へリンクし、同じ説明を複数の文書へ繰り返し書かないようにします。
社内 用語集は 略語だけで 終わらせない
用語集には、正式名称、略称、意味、使う部署、似た言葉との違いを記入します。たとえば「仮登録」が営業では見込み案件の登録、総務では入社予定者の登録を指すなら、二つを同じ意味としてまとめてはいけません。
質問に部署の情報がない場合は、どちらの手続きを知りたいかを聞き返す設計にします。用語集へ意味を並べるだけでなく、区別するために必要な条件も残すと、AIが一つに決めつけにくくなります。
検索で使われる言い方は、利用者の質問から追加します。正式名称を知らない人が「家で使う画面」と質問しているなら、モニター貸与の文書と対応づける候補になります。ただし、無関係な言葉を大量に追加するより、実際につまずいた表現から見直します。
追加から 廃止までの 運用を 決める
新しい文書は、業務の担当者が下書きを作り、責任者が内容を確認してから検索対象にします。未確認のメモと正式な手順を同じ場所に置く場合も、状態を区別し、AIがどちらを使ってよいかを決めておきます。
変更時には、何が変わったかと適用日を記録します。旧手順を残す必要があるなら、過去の確認用として分け、現在の質問に使う資料とは区別します。ファイル名だけを「旧」に変えても、検索対象に残っていれば回答へ混ざることがあります。
廃止後は、その文書だけを根拠とする質問で確認します。新しい手順へ案内されるか、対象外として窓口へ戻るかを見ます。管理表を更新しただけで終わらず、利用者が見る回答に反映されたことを確かめます。
更新の 優先 順位を 質問から 決める
答えられなかった質問は、資料が存在しない、記述が曖昧、古い内容が残る、利用者の言い方で探せないという原因に分けます。頻度が高く、手戻りが大きいものから直すと、限られた管理時間を使いやすくなります。
資料を更新したら、報告された質問とその言い換えで再確認します。以前は使えた手順まで変わっていないかも見ます。質問、変更した資料、確認結果を一組で残すと、後任者が変更の理由を追えます。検索全体の評価は社内マニュアル検索の改善方法と合わせて進められます。
まとめ
共有ライブラリは、社内の用語や手順、規程をAIが参照できる形でまとめたものです。最初は質問の多い業務に絞り、用語集と手順書から整えると始めやすくなります。文書は一つのテーマごとに分け、指示語を減らし、更新日と担当者を書いておきましょう。閲覧範囲と更新の担当を決め、使いながら直していくことで、回答の正確さを保てます。
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