
この記事のポイント
- AIを使うと、言い方が違う質問でも関係する文書の該当箇所を探しやすくなる。
- 最初に対象の文書を絞り、最新版と更新担当者をはっきりさせておく。
- 回答文の良さだけでなく、正しい資料の該当箇所まで見つけられたかを評価する。
社内の規程や業務マニュアルは、必要なときにすぐ見つからないことがよくあります。共有フォルダの階層が深い、ファイル名から中身が分からない、同じ文書の古い版が残っているといった状況では、探すだけで時間がかかってしまいます。
結局、詳しい人に聞いて済ませるという会社もあるでしょう。その場合、聞かれる側の社員の時間も使われ、答える人によって説明が変わることもあります。
この記事では、AIを使って社内のマニュアルや規程の検索を改善する仕組みと、導入を進めるときの手順を説明します。
社内 文書の 検索で 起きがちな 困りごと
社内文書の検索がうまくいかない理由は、主に次のようなものです。
- 文書の置き場所が部署ごとに分かれていて、どこを探せばよいか分からない。
- 文書に使われている言葉と、探す人が思い浮かべる言葉が違う。
- 同じ規程の古い版と新しい版が混ざっていて、どれが正しいか判断できない。
- 長い文書の中から、必要な箇所を見つけるのに時間がかかる。
一般的なファイル検索は、入力した言葉がファイル名や本文に含まれているかで探します。そのため「有給の取り方」と入力しても、規程に「年次有給休暇の請求手続」と書かれていれば、うまく見つからない場合があるわけです。
AIで 改善できること
AIを使った文書検索では、言葉の一致だけでなく、意味の近さで文書を探す方法を使えます。文章を数値の並びに変換し、内容が近いものを探すベクトル検索と呼ばれる技術です。言い方が違っても、関係する箇所を見つけやすくなります。

さらに、見つかった文書の内容をもとに、AIが質問への回答文を作る形もあります。社内の資料を検索してから回答を作るこの仕組みはRAGと呼ばれ、詳しくはRAGとは?社内の資料を参照して答えるAIの仕組みで説明しています。
どちらの形でも、回答や検索結果と一緒に、元の文書の名前と該当箇所を表示することが大切です。AIの回答には誤りが含まれる可能性があるため、利用者が元の文書を開いて確かめられるようにしておきましょう。
検索結果を一覧で出すだけの形と、回答文まで作る形のどちらが合うかは、使い方によって変わります。規程の正確な文言を確かめたい場面が多いなら、該当箇所を一覧で示す形のほうが使いやすいこともあるでしょう。
対象にする 文書を 選ぶ
最初から社内のすべての文書を対象にすると、古い文書や内容が重なる文書が混ざり、検索の精度が下がりやすくなります。まずは、問い合わせが多い分野や、探す手間が大きい分野に絞って始めることをおすすめします。
たとえば、総務や人事に関する規程、経費精算の手順、社内システムの操作マニュアルは、多くの社員が使うため候補になりやすい文書です。
対象を決めたら、それぞれの文書について最新版がどれか、誰が内容を管理しているかを確認します。管理している人が分からない文書は、内容が正しいかどうかも判断できません。
文書の 整え方
AIで検索しやすくするために、文書の形も見直しておきたいところです。見出しや章立てが整っている文書は、内容のまとまりごとに分けて登録しやすく、検索の結果も分かりやすくなります。
スキャンした紙の書類のPDFは、そのままでは文字として読み取れない場合があります。文字を読み取る処理を加えるか、元のデータが残っていればそちらを使うことを検討してください。表や図が多い文書も、表の中身が正しく取り出せているかを確かめる必要があります。
古い版の扱いも決めておきます。廃止された規程を検索対象から外す、版の日付を文書に明記するといったルールがあれば、古い内容が回答に使われるおそれを減らせるでしょう。データの整理については、AIアプリ開発の前に整理したい社内データでも説明しています。
閲覧 権限の 扱い
社内文書の中には、役職や部署によって閲覧できる人が限られるものがあります。人事評価の基準や給与に関する資料、経営会議の資料などがその例です。

こうした文書を区別せずにAIの検索対象へ登録すると、本来は見られない社員にも、回答を通じて内容が伝わってしまうおそれがあります。対策として、利用者の権限に応じて検索できる文書を絞り込む仕組みを入れておく必要があるのです。
最初の段階では、全社員が見てよい文書だけを対象にする方法も現実的です。権限ごとの絞り込みは、効果を確かめた後に範囲を広げるときに検討すれば間に合います。
小さく 始めて 広げる
導入は、一つの部署や一つの分野から始めると進めやすくなります。対象の文書を登録したら、実際に社員から寄せられた質問を集め、期待どおりの文書が見つかるかを確かめましょう。
試験的に使ってもらう期間には、見つからなかった質問や、違う文書が出てきた質問を記録しておきます。記録をもとに、文書を追加する、見出しを整える、検索の設定を調整するといった改善を続けていきます。効果が確認できたら、対象の分野や部署を広げていく流れです。
効果を確かめる方法も、始める前に決めておくとよいでしょう。たとえば、試験期間の前後で総務や人事への問い合わせの件数がどう変わったかを比べる方法があります。利用した社員に、目的の文書を見つけられたかを聞き取ることも参考になります。数字と利用者の声の両方を集めておけば、範囲を広げるかどうかを判断しやすくなるはずです。
経費 精算の 資料を 探す 想定例
架空の会社で、社員が「領収書をなくした場合はどうすればよいか」と質問するとします。経費精算マニュアルには「証憑を提出できない場合」の手順があり、申請理由の記入と経理への確認が必要と書かれている想定です。
AIを使う検索では、質問の言い方と資料の表現が異なっていても、この箇所を候補として探します。検索結果には、文書名、該当する見出し、要点、元資料へのリンクを表示します。社員は短い説明を読んでから、必要に応じて正式な手順を開けます。
ここで「経理への確認が必要」という条件が抜ければ、検索結果が正しくても案内としては不十分です。目的の資料が見つかったか、条件を保って説明できたか、利用者が原文へ戻れるかを分けて確認します。
キーワード 検索と 意味による 検索を 使い分ける
型番、伝票番号、正式な文書名が分かっている場合は、文字の一致を使う検索が適しています。反対に、制度の名前が分からず困りごとだけを説明する場合は、意味の近さを使う検索が候補になります。
| 探し方 | 利用者の入力例 | 確認したいこと |
|---|---|---|
| 名前を知っている | 備品管理規程 | 正式な文書を先に見つけられるか |
| 番号を知っている | 型番A-10の手順 | 似た番号を混同していないか |
| 困りごとを説明する | 領収書をなくした | 異なる表現の該当箇所を探せるか |
| 条件を説明する | 出張を途中で取りやめた | 取消や変更の条件も含めて探せるか |
複数の検索方法を組み合わせる場合も、すべての質問で同じ結果になるとは限りません。実際の社員が使う質問で比較し、資料の性質に合う方法を選びます。似た型番が多い資料では、意味の近さだけで選ばれていないかを特に確認します。
評価表は 正しい 出典から 作る
試験前に、業務担当者が質問と正しい参照先を組にします。期待する回答だけでなく、文書の見出しやページも記録します。出典が決まらない質問が多い場合は、検索の開発より先に手順の文書化が必要かもしれません。
評価では、検索結果の上位に正しい箇所があるか、その資料を利用者が開けるかを確認します。回答生成を組み合わせる場合は、説明が資料と一致するかも見ます。正しい文章を偶然生成できても、別の資料を示しているなら、根拠を確認できる検索にはなっていません。
質問例には、現行手順、廃止した手順、答えが存在しない質問、別部署だけが見られる資料への質問を含めます。資料の更新後も同じ例を使うと、変更の影響を確かめやすくなります。
見つからないときに 直す 順番
まず、正しい資料が検索対象に登録されているかを見ます。登録されていなければ、追加するか対象外と案内します。登録済みなら、文字の取込み、見出しの区切り、表や注記の保持を確認します。
次に、利用者の質問で検索された候補を見ます。違う文書ばかりが出るなら、正式名称と日常の呼び方の対応、対象資料の絞り込み、検索設定を見直します。候補は正しいのに回答が違う場合は、検索ではなく説明を作る工程を調べます。
最後に、改善前後で同じ質問を試します。問題の質問だけでなく、以前から見つかっていた文書も確認してください。対象資料を増やした結果、別の質問で旧版が先に出るといった影響を見つけられます。
検索 画面で 確認しやすくする 工夫
結果の一覧には、文書名だけでなく適用日や該当箇所を示します。同じ題名の資料が並ぶ場合、利用者が最新版を見分けられるようにします。資料へのアクセスに失敗したときは、開けないリンクだけを返さず、管理窓口を案内します。
AIによる説明を読むだけで作業を進めるのか、原文の確認が必要かは業務で異なります。厳密な条件を確認する規程では、要約と原文を行き来しやすい表示にします。検索を導入した効果は、回答数だけでなく、社員が正しい手順にたどり着けたかで確かめましょう。
まとめ
社内マニュアルや規程の検索は、AIを使うことで、言い方が違う質問でも関係する箇所を探しやすくなります。ただし、検索の結果は対象にする文書の状態に左右されるため、最新版と管理者をはっきりさせ、文書の形を整えておくことが欠かせません。閲覧権限の扱いを決めたうえで、まずは一つの分野から試してみてください。
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