
この記事のポイント
- 最初は会議の準備、資料の確認、文章の下書きのように、結果を自分で確かめられる作業で試す。
- 人事評価、価格や契約条件、取引先との約束など、責任を伴う判断はAIに任せない。
- 社内に広げる前に、入力してよい情報、使うツール、試す業務と記録の方法を決める。
社内でAIを使うかどうかを決める前に、経営者自身はまだAIを使ったことがない、という場合があります。担当者からツールの提案を受けても、AIで何ができ、どこで間違えるのかを知らないままだと、導入の判断も、社内ルールの線引きも難しくなります。
この記事では、経営者が自分でAIを試すときに向く作業と、AIへの入力例、AIに任せない判断、社内に広げる前に確かめることを説明します。最初に試す作業は、会議の準備、資料の確認、文章の下書きの三つです。どれも経営者がふだん行っている仕事で、AIの出力が正しいかを自分で判断できるため、AIの得意なことと苦手なことを短い期間でつかめます。
経営者が 自分で 試す 理由
経営者が自分でAIを使うと、社内の提案を判断する材料が増えます。AIがどの程度の下書きを作れるか、どんな間違いをするかを知っていれば、担当者が示す効果の見込みが現実的かどうかを確かめられます。
社内ルールを決めるときにも、使った経験が役に立ちます。入力してよい情報や、出力を誰が確認するかを決めるには、実際にどんな場面でAIを使いたくなるかを知っている必要があります。社員に使い方を聞かれたときに、自分の使い方を例として示すこともできます。
試す 前に 決める 情報の 範囲
試す前に、AIに入力しない情報を決めます。社員や顧客の個人情報、取引先から預かった非公開の資料、公表前の決算や人事の情報は、試す段階では入力しません。会議資料を使う場合は、固有名詞を伏せた要点だけを渡します。
使うツールも確認します。会社で契約したツールがあればそれを使い、個人のアカウントで業務の情報を扱う場合は、入力した内容の扱いを利用規約で確かめます。確認する項目は社内の情報をAIに入力する前に確認することにまとめています。
会議の 準備に 使う
一つ目の作業は、会議の準備です。議題の整理、想定される質問の洗い出し、論点の抜けの確認にAIを使います。たとえば、来月の幹部会議で新しい営業所の開設を議題にする場面を考えます。経営者がAIに渡す入力の例は次のとおりです。
来月の幹部会議で、新しい営業所を開設するかを話し合います。
参加者は営業部長、総務部長、経理担当です。
私が説明する予定の内容は次の三点です。
・開設の目的は、既存の営業所から遠い地域のお客様への対応
・候補地は二か所で、まだ決めていない
・開設の時期は来年度の前半を考えている
参加者から出そうな質問を、立場ごとに挙げてください。
私の説明で抜けている論点があれば指摘してください。
AIは、総務部長からは人員の配置や事務所の契約について、経理担当からは費用と回収の見込みについて質問が出そうだ、といった一覧を返します。経営者は一覧を見て、自分の資料で答えられない質問に印を付けます。AIが挙げた論点がすべて妥当とは限らないため、自社に当てはまらないものは外します。
資料の 確認に 使う
二つ目の作業は、社員が作った資料の確認です。報告書や企画書を読む前に、AIに論点の整理と、説明が足りない箇所の指摘を頼みます。
次の企画書を読んで、三つのことを教えてください。
1. この企画書が経営者に決めてほしいことは何か
2. 説明が足りない、または前後で食い違っている箇所
3. 判断のために追加で確認したほうがよい情報
数字の計算はしないでください。
(企画書の本文。社名と個人名は伏せる)
AIの指摘は、資料を読む順番を決める手がかりとして使います。判断そのものは、経営者が資料の本文を読んで行います。数字の合計や比率が正しいかは、AIの指摘に頼らず、元の表計算のファイルで確かめます。生成AIは計算を間違えることがあるため、入力例でも計算をしないよう指示しています。
文章の 下書きに 使う
三つ目の作業は、文章の下書きです。社内への方針の説明、取引先へのお礼状、採用ページに載せる代表のあいさつなど、経営者が自分の名前で出す文章が対象になります。
社員向けに、来月から始める社内の相談窓口について案内する文章を書いてください。
伝えたいことは次の三つです。
・仕事の進め方や職場の困りごとを相談できる窓口を作る
・相談の内容は、本人の同意なく上司に伝えない
・窓口の担当は総務部の二人
読み手は全社員です。硬すぎない文体で、短くまとめてください。
下書きを受け取ったら、伝えたいことが全部入っているか、入れていない約束が書かれていないかを確かめます。AIは文章を整えるときに、元の指示にない内容を足すことがあります。最後は自分の言葉に直してから出します。指示の書き方の基本は仕事で使えるAIへの指示文の書き方で説明しています。
三つの 作業の 比べ方
三つの作業は、AIに渡すものと、自分で確かめることが違います。試すときは次の表を手元に置き、確かめた結果を短く記録します。

| 作業 | AIに渡すもの | AIの出力 | 自分で確かめること |
|---|---|---|---|
| 会議の準備 | 議題、参加者の立場、説明の要点 | 想定質問と論点の一覧 | 自社に当てはまるか、答えられるか |
| 資料の確認 | 社員の資料(名前を伏せる) | 決めてほしいこと、不足の指摘 | 本文を読んだうえでの判断、数字 |
| 文章の下書き | 伝えたいこと、読み手、文体 | 案内文やお礼状の下書き | 足された約束がないか、言葉づかい |
記録には、使った作業、かかった時間の感覚、出力をどれだけ直したか、間違いの内容を書きます。数回試すと、どの作業で使いやすく、どの作業で直す量が多いかが分かります。
AIに 任せない 判断
AIを使い始めると、判断に迷う問題もAIに聞きたくなります。AIの回答は判断の材料の一つとして読み、次のような責任を伴う判断は経営者や担当者が行います。

人事評価、採用の可否、配置の決定は、本人の事情や社内の経緯を踏まえて人が決めます。価格や契約条件、取引先との約束は、会社が責任を負う内容です。法律や税務に関わる判断は、AIの回答をそのまま採用せず、弁護士や税理士などの専門家に確認します。
AIに判断の材料を整理させることはできます。たとえば、二つの候補地の条件を表にまとめてもらうことは役に立ちます。ただし、表にした条件で足りているか、どちらを選ぶかは、経営者が決めます。
社内に 広げる 前に 確かめること
自分で試して使い道が見えたら、社内に広げる準備に移ります。広げる前に確かめることは次の四つです。
一つ目は、入力してよい情報の範囲です。経営者が試したときの線引きを、社員にも分かる言葉で書きます。二つ目は、使うツールと契約です。社員が個人のアカウントで使い始める前に、会社として使うツールを決めます。三つ目は、最初に試す業務と担当者です。全社に一度に広げず、一つの部署の一つの業務から始めます。四つ目は、効果の記録の方法です。作業時間と直した量を、試す前と後で比べられるようにします。
この四つは、AI導入を始める前に確認したい社内チェックリストの目的・業務・体制・情報・予算の項目と重なります。経営者が自分で試した経験があれば、チェックリストの各項目を具体的に埋められます。
まとめ
経営者が最初にAIを試すなら、会議の準備、資料の確認、文章の下書きのように、出力の正しさを自分で判断できる作業が向いています。試す前に入力しない情報を決め、出力は判断の材料として使います。人事、価格や契約、法律や税務に関わる判断はAIに任せず、社内に広げる前に情報の範囲、ツール、試す業務、記録の方法を決めてください。
e-Grantsでは、何から始めるかを整理するための無料のAI活用診断を受け付けています。AI導入コンサルティングでは、AIで減らせる作業の洗い出し、ツールの選定、小さく試す導入計画、社内ルールづくりまでを支援します。一宮市・名古屋市・愛知県を中心に、オンラインで全国からご相談いただけます。


